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多様化する決済規格、消費者が選ぶキャッシュレス体験とは
デジタル化

多様化する決済規格、消費者が選ぶキャッシュレス体験とは

マネーツリー編集部
2018
11
09

日本経済新聞社と金融庁の共催で2018年9月25日から28日にかけ、フィンテックとレグテックをテーマにしたグローバルなスタートアップイベント「FIN/SUM 2018 x REG/SUM」が開催されました。イベントの3日目には、日本の決済分野に精通した専門家が集い「Acceptance is Everything: Cashless Today, not in 2020」と題して、マネーツリー主催のワークショップが行われました。その模様をイベントレポートとしてまとめました。

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登壇したのは、Mastercardプロダクト副社長のデイビット・ケル氏、ビザ・ワールドワイド・ジャパン デジタル・ソリューション&ディプロイメント部長の鈴木章五氏、株式会社ジェーシービー ブランドインフラ推進部長の渡辺貴氏、大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター マーケティング・決済プラットフォーム本部 モバイルペイメント企画開発部 第2グループ リーダー 小野寺貴弘氏。モデレーターを務めたのは、マネーツリー事業部長兼常務取締役で共同創業者のマーク・マクダッドです。      

             

80%以上が現金支払いの日本

経済産業省は2018年7月、産学官からなる「キャッシュレス推進協議会」の設立を発表した。設立の背景には、日本のキャッシュレス比率の低さがある。経済産業省の資料によると、2015年における日本のキャッシュレス比率は18%であり、他国に比べると低い水準だ。

「日本では80%以上の取引が現金で行われているということ。諸外国のキャッシュレス比率をみると韓国は90%近く。アメリカは50%ほど。先進国と言われている国の中で日本のキャッシュレス比率が低いのが現状」と鈴木氏は説明する。

意外に身近なキャッシュレス決済

現状のキャッシュレス比率は低いが、日本は他国よりも早くからキャッシュレス決済を取り入れてきた国でもある。決済の方法は接触と非接触とに分けることができ、非接触の規格にはNFC(近距離無線通信)、FeliCaやType A/Bなどがある。

FeliCaと言えば、SuicaやPASMOといった交通系ICカードに搭載されている規格だ。日本でSuicaが登場したのは2001年、モバイル端末で電子マネーが使える「おサイフケータイ」が登場したのは2004年のことだ。

交通系ICカード以外にもnanacoやWAON、楽天Edyといった電子マネーも多数存在する。そう考えるとキャッシュレス決済は意外と身近な存在だと言えるだろう。ただ、今の日本のキャッシュレス推進における課題は、用途ごとのカードを必要とするのではなく、消費者がキャッシュレスで買いたいと思うものをすべて買える環境をどう整えていくかにあるとデビッド氏は指摘する。 

決済デバイスの多様化

従来のプラスチックカードやモバイル端末に加え、最近ではApple Watch® など決済機能のついたウェアラブル端末も複数登場し、消費者の選択肢は増えている。鈴木氏は例として、自分の身につけているガーミン社の腕時計型のウェアラブル端末を見せた。その端末には非接触決済機能が付いていて、例えばコンビニなどでカード決済用の端末にかざすと支払いができるというものだ。今後もこうした決済機能のあるデバイスは増えることが予想される。

躍進するQRコード決済

また、新たな決済手段として注目を集めているのが「QRコード決済」だ。QRコード自体はコミュニケーションのためのインターフェースの1つに過ぎない。それが決済手段として普及したのは、中国発の決済サービスAlipay(支付宝)WeChatPay(微信支付)の影響が大きいと言える。

AlipayはEC大手のアリババ(Alibaba Group)、WeChatPayはメッセージアプリ「WeChat」を手がけるテンセント(Tencent Holdings Limited)が運営している。これらの信頼性が高く、便利な決済サービスは、従来の決済手段やインフラを持たない小規模な商店を中心に普及し、中国国内で広まった。

こうした新たな決済ツールを持った中国人が観光やビジネスで海外を訪れる。そのため中国以外の国でもQRコード決済への対応が検討され始めている。アメリカン・エキスプレス、ディスカバーカード、 JCB、Mastercard、ユニオンペイ、ビザの国際ブランド6社で構成するEMV Coは、すでに2017年7月、QRコードの共通規格を2つ公開した。加盟店側が消費者に提示するタイプのQRコードと消費者側が店舗に提示するタイプのQRコードの共通規格を用意している。 

日本におけるQRコードのユースケースの1つは、地方の店舗や小規模な商店での導入と渡辺氏は話す。都内ならタクシーでも非接触決済を使えたりするが、地方の商店、特に小規模な飲食店や土産物屋では現金しか使えないところも多い。

こうした小規模な店舗でキャッシュレス決済が広まらない理由の1つは、従来のPOSシステムは高額で導入のハードルが高いことが挙げられる。QRコード決済ならスマホさえあれば利用でき、加盟店側はQRコードを張り出すだけで手軽にキャッシュレス決済を受け付けることができる。加盟店側で専用の端末を必要としないQRコードなら、キャッシュレス決済の導入のハードルを下げることができるだろう。

新興企業の参入はキャッシュレスを推進するか

QRコード決済のみならず、近年、新興企業やフィンテック企業による新しい決済サービスも多数登場している。こうして選択肢が増えることは歓迎すべきことと渡辺氏は言う。ひとたび消費者がキャッシュレス決済に慣れ、習慣が変っていけば、社会はさらにキャッシュレスに向かっていく。今はその転換期であり、2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京五輪などのイベントはキャッシュレスを進める上で大きなきっかけとなるだろう。

また、新しい決済サービスと決済方法の標準化を行うことが、キャッシュレスを推進するために重要とデビッド氏と鈴木氏は話す。これまで国際ブランド各社はアクセプタンス・ネットワーク(受け入れ加盟店のネットワーク)を構築するのに注力していた。その結果、今ではクレジットカード、あるいはデジタルクレデンシャルを持っていれば世界中で決済できる。ただ、新規発行元が新たにこうしたネットワークを構築するのは非常に時間がかかることであり、消費者に新たな決済の選択肢を提供するにも決済方法の標準化が必要と説明する。

今回のワークショップでは、日本におけるキャッシュレスの現状から今後キャッシュレス決済を推進する手立てについてまで幅広く議論した。消費者が決済に使えるデバイスもサービスもすでに十分揃っていて、テクノロジー自体がキャッシュレスに歯止めをかけているわけではないだろう。これからキャッシュレス推進にとって重要なのは、消費者にキャッシュレス決済の安全性や利便性を啓蒙すること、そしてよりユーザーにとって価値のある体験を作っていくことではないかとマークは話し、ワークショップを締めくくった。

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