家計をスリム化しようと「とりあえず毎日の食費を減らしてみようかな」「好きなことに使うお金は、もしかして無駄使いかも」とお金を使わないように試みても、ただガマンを重ねる節約はストレスばかり溜まり、やがてうまくいかなくなります。
家計改善は、頑張るのではなく「お金が貯まる仕組み作り」が大切です。今回は、4つのステップに沿って家計改善に挑んだIさんの事例をご紹介します。
旅行などに出かける際、家から目的地までを地図やナビで確認することがありますよね。どの方角へどのように進めばいいかわからなければ、目的の場所に着くことはできないからです。
お金を貯めるのも同じこと。「いつ・何に・いくら」必要で、「どのように」貯めればいいのか設定しなければ、目標にたどり着くことは難しくなります。反対に、先に設定して仕組みを作ってしまえば、あとはその通りにお金を使ったり貯めたりするだけで、自然とお金が貯められるでしょう。車のナビで目的地を設定してその通りに進めば、到着できるのと似ていますね。
家計を改善し、将来の資産形成までスムーズに行うには、以下の4つのステップを踏んでみましょう。以前掲載した、「自分でできる!家計改善と資産形成4つのステップ」の記事により具体的なステップの手順を記していますので、そちらも参考にしてみてください。
ステップ1. 収支とお金の流れを可視化し、家計の現状把握をする
はじめにやるべきことは、毎月何にいくらお金を使っているかの「現状把握」です。たとえば、ダイエットを始める時、まずは自分の体重を測って現状を知り、そこから目標設定をすると思います。これと同じように、家計改善をするには、まず毎月の収支とお金の流れを確認します。
収支とお金の流れを「見える化」するには、家計簿アプリを活用しましょう。
ステップ2. 「お金の目的別カテゴリー」を確認する
お金は、その機能に沿って以下の4つのカテゴリーに分けることができます。
・日々の生活や未来に<使う>お金・近い将来必要な<守る>お金・遠い将来必要な<増やす>お金・もしもの時に<備える>お金
次のステップ3で具体的な貯蓄の目標額を設定しますが、ステップ2ではまず人生において必要になるお金のカテゴリーを見て、マネープランを作成する参考にします。たとえば、「近い将来必要な<守る>お金」であれば、子どもの教育資金などが当てはまります。
ステップ3. 「いつ・何に・いくら」必要か目標設定する
これから先の人生で、自分または家族にどのようなライフイベントがいつあるのか、それにはいくらかかるのかを明らかにします。その時になって慌てて生活費を切り崩してしまうようなことがないよう、「先取り貯蓄」でお金を貯めていきましょう。
ステップ4. それぞれの目標を踏まえて運用方法を決める
最後に、どのようにお金を貯めるかを決めます。住宅資金であれば財形住宅貯蓄、老後資金であれば確定拠出年金といった具合です。それぞれ目的に合った運用方法を選択することで、より確実に資金を確保することができます。
先日マネー相談にいらしたIさん家は、これまで家計の可視化や貯金の目的を意識したことがなく、口座の中で生活費とそれ以外のお金が一緒くたになっていました。夫婦の財布も別で、1ヶ月の収支も把握できていないと言います。、貯金は充分にできているそうですが、、大きな出費がある時は無計画に使ってしまい、「残りのお金がいくらで、何にどのくらい使えるのか」がわからないのが悩みの種だそうです。
Iさん夫婦は子どもが生まれたことで、家族のお金を見直したいと考えるようになったと言います。「教育資金は足りるのかな」や「そういえば、老後の対策は何もしていない」といった今後のお金のことが気になり始めたということです。
そこでまずは、家計簿アプリ『Moneytree』を使い、1ヶ月のお金の流れを記録してもらいました(ステップ1)。Iさんの1ヶ月の家計簿は、以下のとおりです。
<Iさんのプロフィール>
Iさん(38歳): 会社員、妻Sさん(33歳): 会社員
1ヶ月の給与: Iさん 約40万円、妻Sさん 約22万円
貯金:約400万円
1ヶ月の収支
住居費 108,000円(住宅ローン返済)
食費 89,000円
日用雑貨費 13,500円
水道光熱費 21,000円
通信費 31,600円
交際費 20,800円
被服費 17,200円
娯楽費 38,000円
パーソナルケア費 29,500円
保険料 22,600円
交通費 8,000円
美容費 10,000円
医療費 600円
子ども費 44,800円
その他 10,200円
貯金 155,200円
1ヶ月の収支と内訳を記録してもらうと、いくつか家計改善のポイントが見えてきました。
・固定費の無駄を省いて、出費を大幅減
Iさんの家計の無駄は、すぐに見つかりました。通信費、パーソナルケア費を見直すことで、月数万円の出費減ができそうです。インターネットやスマートフォンの普及で、通信費が家計を圧迫している家庭は少なくないのですが、Iさん家も例外ではありませんでした。インターネットのセット割や格安スマホへの乗り換えなど、通信費を抑えることは意外と簡単にできます。特にこだわりがないのであれば、積極的に利用してみましょう。
また、Iさん、Sさんともに充分活用できているとは思えない月額制のサービスを継続したままでした(Iさんは英会話、Sさんはヨガ教室をパーソナルケア費に計上)。一度解約して、使う分だけ支払う回数券プランなどに変更することをおすすめしました。
・食費、日用雑貨費など夫婦で二重買いしている
食料や日用雑貨をお互いが欲しい分だけ購入しているせいで、余分な出費が発生していました。特に食料は、買い過ぎて賞味期限切れしてしまうことも。日用雑貨は腐るものではありませんが、ストックが多すぎることで本当に買うべきものがわからなくなる弊害があります。
・医療保障を厚くし過ぎている
夫婦とも、加入している医療保険の保障が過剰なため、抑えることを提案しました。勤め先の健康保険を利用したり一部を現金で備えておいたりすれば、医療保険でまかなう保障を必要最低限にして保険料を安くできます。
・子どもにかかるお金がオーバー気味
幼い子どもの内はまださほど大きなお金はかかりませんが、予算やルールを決めておかないと出費が増えてしまいます。ベビー用品店に行くたびに洋服やおもちゃを買ってしまうのではなく、おさがりやリサイクル品、レンタルを利用する工夫も大切です。
なお、夫婦それぞれに収入があり、財布が別々になっていたIさんと妻Sさんですが、家計簿を共有することで、家族のお金を一緒に考えることができたようです。
<ステップ1> として1ヶ月間収支の記録を付けた結果、無駄使いのクセが見つかったIさん家の家計簿。ポイントを絞って出費を省けば、無理をすることなく月数万円の節約ができそうです。それでは、マネープランを作成するための次のステップに進みましょう。
<ステップ2&3>お金の目的別カテゴリーを参考にしながら、「いつ・何に・いくら」必要になるかの目標設定を家族のライフイベントに沿って進めていきます。ヒアリングの結果、Iさんの家庭では以下のようなお金を準備しておくことになりました。
・日々の生活や未来に<使う>お金
「使う」お金は、①日々の生活費、②毎年かかる帰省費用、固定資産税などの税金、また、③結婚式のご祝儀といった不定期な出費のほか、④夢を叶えるためのお金の主に4つが当てはまります。
Iさんの家庭では、これら使うお金が同じ口座に入ってしまっていて、大きな出費があった時には生活費口座からお金が多めに出ていくという状況です。これでは、計画的にお金を貯めることができませんので、生活費(①が該当)と予備費(②と③が該当)、夢を叶えるお金(④が該当)の3つの口座は分けて管理します。
Iさん家では、帰省や年に一度の国内旅行、年払いの保険料などが予備費に該当します。さらに、「夢を叶えるためのお金」に子どもが成長した3年後、海外旅行に行くことを目標に決めました。これまでは難しいと思っていた海外旅行も、具体的に資金計画してみると実現にぐっと近づくものです。なお、できれば車が欲しいという希望もありましたが、Iさんの住居の立地からは生活必需品にはならない割に高くつくということで、今回は見送りました。
・近い将来必要な<守る>お金
Iさん家のマネープランで守りながら貯めていくお金には、子どもの教育費が該当します。Iさん家では児童手当を教育資金に充てていますが、生活費口座に入れたままになっています。これでは、他の用途に使ってしまう恐れがあるため、口座を分けることを提案しました。
児童手当は、標準的な家庭の場合、全て貯めれば約200万円にもなります。ですが、18歳までに貯めたい金額にはあと200万円不足しそうなため、すでに加入しているIさんの生命保険の満期金を充てるほか、月5,000円の積立を開始することにしました。
・遠い将来必要な<増やす>お金
このままでは老後資金が不足気味になることを自覚しつつ、何も準備ができていなかったIさん夫婦この機会に、積立を開始します。まずは、精神的にも無理をしない金額からスタートになりました。
・もしもの時に<備える>お金
夫婦の医療保険以外には、ほぼ過不足なく保障を確保できていました。教育資金の積立も学資保険である必要がなく、新たな保険の加入はありませんでした。
<ステップ4>最後に、それぞれの資金に合った運用方法を決めていきます。
・3年後の海外旅行
楽しみな海外旅行の行き先は、ハワイに設定。予算は60万円としました。運用方法としておすすめなのは、「旅行積立」です。旅行積立は、旅行や航空券に使うお金を毎月積み立てるもので、満期時には「サービス額」といって、銀行でいうところの利息がもらえる仕組みです。旅行の予定をしっかり決めれば、お得に使うことができます。
・教育資金
教育資金は、専用口座を作り、児童手当の入金と毎月5,000円の積立を行います。積立は、普通口座に自動積立口座を作って先取り貯蓄していきます。
・老後資金
老後資金の積立としては、税制優遇のある個人型確定拠出年金(iDeCo)を活用。掛金は、夫婦の希望でそれぞれ1万5000円からスタートすることになりました。なお、iDeCoは月々5,000円から積立ができます。掛金の上限額は、会社員の場合、勤め先の企業年金制度によって異なります。ご自身のケースで制度を確認してみましょう。
ちなみに、このようにマネープランを立ててみると、どうしても実現が難しそうなライフイベントが出てくるかもしれません。その場合は、時期や金額が決まっている教育資金など優先順位の高いものからマネープランを設定しましょう。優先順位の低いものは、時期をずらす、金額を低くするなど再設定することで希望が叶う場合もありますし、今回の車の購入のように見送ることも考えましょう。
1ヶ月の収支 | 改善前 | 改善点 | 改善後
住居費 108,000円(住宅ローン返済) 108,000円
食費 89,000円 →見える化で無駄を削減 72,000円
日用雑貨費 13,500円 →見える化で無駄を削減 9,100円
水道光熱費 21,000円 22,000円
通信費 31,600円 →セット割や格安スマホを利用 17,000円
交際費 20,800円 18,500円
被服費 17,200円 16,600円
娯楽費 38,000円 34,000円
パーソナルケア費 29,500円 →英会話やヨガレッスンを見直し 11,100円
保険料 22,600円 →医療保険を見直し 18,600円
交通費 8,000円 7,600円
美容費 10,000円 8,400円
医療費 600円 1,500円
子ども費 44,800円 →お下がりやリサイクル品を活用 29,000円
その他 10,200円 9,900円
旅行積立:16,000円
教育資金積立:5,000円
貯金 155,200円 →貯金の目的を細分化 確定拠出年金月30,000円(二人分)
貯金:185,700円
家計の可視化とマネープランの作成で、これから必要になってくるお金の積立がきるようになったIさんの家計簿。毎月の貯金額も増えました。
貯金は生活費や予備費口座などに振り分けて管理します。将来のために無理して節約するのではなく、固定費から無駄を省いたり、日々のお金の使い方を少し意識したりするだけで、日々を安心して暮らし、そして、未来のワクワクのためにお金を残すことができます。
今回、Iさんの家庭は、教育資金や老後資金、旅行資金などを準備する仕組みを作りましたが、住宅ローンの繰り上げ返済などいったんはプランに入れない項目もありました。マネープランは定期的に見直し、その時のベストな計画を作っていくことが大切です。
入ってくる金額はすぐには変わらないものですが、何にいくら必要か計画してお金の仕分けをすることで、実現できる未来は変わるものです。自分にとって優先したいものから目標設定をしていけば、資金を予定通りに貯めて、高い確率で叶えられるでしょう。家族で「〇年後に何がしたいか」と話しながら決めるのも楽しいですよ。ぜひ、家計簿アプリで収支の記録から始め、マネープランまで作成してみてください。
ファイナンシャル・プランナー(AFP)。1983年埼玉県生まれ。会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやコラム執筆を行う。独立後は、起業のコンサルティング業務とともに、執筆や個人マネー相談、メディア出演などを中心に活動中。著書に『いちばん稼ぎやすい簡単ブログ副業』(河出書房新社)がある。
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