結婚や出産を機に、仕事よりも家庭を優先したいと考える人も多いのではないでしょうか。ライフスタイルの変化で働き方も変えたい場合には、家計をどのように備えておけばいいのか気になりますよね。今回は、「子どもを産んだら仕事を辞めたい」と考えている共働き夫婦の家計をご紹介し、働き方を変えたい人のマネープランについて解説していきます。
結婚後も変わらずバリバリ働き、「出産しても仕事は続けてキャリアを築きたい」と考えている女性でも、いざ子どもを授かる頃になると、「仕事よりも家庭を優先した方がいいのでは」と考えるようになった、という話をよく耳にします。
保育園には入れるだろうか、職場の理解が得られるだろうか、仕事と育児を両立できるだろうか、といった不安から「夫にある程度収入があれば、自分は無理することはないのでは…」と考え始める女性は少なくありません。「子育てが落ち着いたらまた復帰すればいい」と漠然とイメージしている人もいるでしょう。これは、マネー相談に訪れる相談者に限ったことではなく、私の周りにもこうしたタイプの友人が大勢います。
こうした状況は、実際のデータにも表れています。厚生労働省の「平成28年 雇用動向調査結果の概要」によると、結婚や出産・育児を理由に離職する女性の割合は、結婚が25~29歳で最も多く、出産・育児は30~34歳が最も多くなっています。なお、結婚を機に仕事を辞める人は、20年ほど前に比べるとだいぶ減りましたが、出産・育児はというと、微減しているものの横ばい状態となっています。結婚して共働きを続けていても、子どもができたらいったん仕事は辞めようと考える女性は、現在でも少なくはないのですね。また、子どもが生まれたら妻には仕事を辞めてほしいと考える男性も、一定数いるようです。
出産を機に仕事を辞めていったん専業主婦になり、子育ての大変な時期が落ち着いたら無理のない範囲でパート勤務になる。そうすると、仕事の負担が減ることで、生活にはゆとりが生まれそうです。一方で、心配なのはやはり金銭面でしょう。
妻が仕事を辞めて夫の収入だけで家計を支える場合は、その分の収入減を見越しておかなければなりません。気を付けたいのは、収入が減った時の家計は数字の上では問題がないとしても、実際にその生活を経験してみないと大変さがわからないという点です。
「節約すれば夫だけの稼ぎだけでも何とかなりそう」と思っても、いざそうなってみると、生活水準を下げるのが想像以上に大変で月の収支が赤字になったり、貯金を切り崩さなければならなかったりするかもしれません。子どもが生まれたとなれば、子育てにもお金がかかるようになります。「こんなに大変なら、仕事を辞めなければよかった」と後悔することがあるかもしれません。
数字のシミュレーションだけではなく、できれば夫の収入だけで1ヶ月は過ごしてみて、その生活を実感するのはとても大切なことです。その上で、仕事を辞めるかどうか選択をするのも一つの手でしょう。
先日マネー相談に訪れた夫婦(夫Tさん32歳、妻Iさん29歳)も、将来子どもが生まれたら、妻が仕事を辞めようと考えている共働き家庭です。夫婦とも仕事が忙しく、特に妻のIさんは、このままの職場環境では、子育てをしながらの勤務は体力的に難しいと感じているようです。あと2年くらいしたら子どもを授かりたい、収入的には夫だけでも大丈夫と考えているということ。出産後は仕事を辞めたい願望が強く、後々パートで働くことも視野に入れているものの、育休を利用して現在の職場へ復帰ということはほとんど予定していないそうです。
Iさんと話をしてみると、「確かに、経済的に余裕のある生活に慣れてしまっています」という声がありました。また、共働き夫婦によくある「毎月の支出を把握していない」とも。そこで、ご夫婦に家計簿アプリ「Moneytree」を活用してもらい、まずは1ヶ月の収支を視覚化することを提案しました。
<夫婦のプロフィールとある1ヶ月の収支>
夫:Tさん(32歳)会社員
妻:Iさん(29歳)会社員
1ヶ月の手取り収入:約65万円
貯金:夫婦合わせて約900万円
共働きで手取り収入が充分あり、生活費の余りとして20万円以上、しっかりお金を貯めている印象です。ただ、実際にはここから大きな買い物をしたり、旅行に使ったりして消費することもあるそうで、毎月の貯金額はまばら。独身時代からの分を含めると貯金はできているものの、将来のための具体的な使い道は決めていないそうです。
ボーナスは決められた金額を家族用口座に振り込み、普段は夫婦それぞれが任意で貯金をしています。今後は、子どもが生まれてからかかる教育費やマイホーム購入資金など、目標を定めて貯蓄していきたいものです。
さて、Iさんが離職した場合には、夫のTさんだけの収入(手取り月収約40万円)で生活していくことになります。Iさんが専業主婦になれば、外食が減り被服費や交際費も若干減ることが予想されますが、子どもにお金がかかることから、何も意識しないままでは赤字になってしまいそうです。
また、保険に加入していないことも気になっているとか。以前、Tさんは医療保険に入っていたのですが、「本当に必要なのかな」と疑問に思い、お金がもったいないと感じて解約してしまったのだと言います。現状では充分な貯蓄があるため、医療保険に入る必要はないように思えますが、今後、住宅ローンの頭金で貯金が減ることや収入減でこれまでのようには貯蓄できないこと、また、子どもを授かる可能性があることを踏まえると、医療保険や生命保険の加入は検討したい項目の一つでしょう。
Tさん、Iさん夫婦の家計についてアドバイスは以下の3つ。
Tさん、Iさん夫婦には次の1ヶ月間、夫のTさんの収入だけで生活をしてもらうことに。もちろん、子どもが生まれた時の生活と全く同じようにはできませんが、今より収入に制限がある状態を体験してみる試みです。同時に、はじめの1ヶ月の家計から見えてきた改善ポイントを伝え、意識してお金を使ってもらうことにしました。
<Tさんの収入だけで過ごした1ヶ月の収支>
夫Tさんの収入のみで1ヶ月生活をしてもらいましたが、その支出は貯蓄分も含め403,443円となりました。先取り貯蓄の仕組み(自動積立定期預金を手続き中)を取り入れることで先回りして貯金ができるようになりましたが、以前に比べると貯金額はぐっと少なくなりました。また、不定期に発生する大き目の出費に備え、予備費も追加。これで切り崩してはいけない将来のための貯蓄と分けることができます。
また、意識して外食を減らし、自炊を心がけたそうですが、働きながらのシミュレーションは難しかったとのこと。被服費は少なめになったものの、娯楽費や交際費を減らすのは少し大変と感じたそうです。なお、保険は医療保険に加入予定、生命保険は夫婦共働きで子どものいない現段階では、早急に入る必要はないものですので、今後のライフスタイルの変化に応じて加入を検討していきます。
なお、いざ妻が仕事を辞めるとなれば、固定費をあらかじめ削減しておくことも必要です。今回は提案のみとさせていただきましたが、たとえば、格安スマホに替えて通信費を削減する、住居費の安い部屋へ引っ越すなどです。毎月決まって出ていく支出は固定費と考え、できるだけ節約しておくと家計の負担が減ります。
妻が退職したと仮定して過ごしてみた1ヶ月が終わり、Tさん、Iさん夫婦は「シミュレーションをやってみてよかった。思ったほど大変ではなかったけれど、子どもがいればお金のかけどころが変わってくるはず。今はやはり、出産したら仕事を辞めたい気持ちが強く、パートで仕事に復帰することを検討したい。これを機に、年間の収支や長期的な視点に立った推計も出して今後のことを考えていきたい」と話していました。
「妻が仕事を辞めたり、正社員からパート社員になったりしても大丈夫?」というのは、共働き家庭からよく聞かれる相談内容です。このまま仕事を続けた場合と、専業主婦になった場合、そして、一度仕事を辞めてパートで復帰といった3パターンで家計の将来推計を算出してみると、専業主婦やパート勤務では○年後に赤字に転落…といったシミュレーション結果になることは少なくありません。
育児休業を利用して働き続けた場合と出産を機に退職した場合では、生涯賃金に1億円も差が開いてしまう、といったデータもあります。となると、子どもが小さいうちは多少保育料がかかったとしても、働き続けるべきといった意見は間違いではありません。一度仕事を辞めてブランクができれば、再び正社員として働ける可能性も狭まります。
とは言え、それでも家族優先の生活が送りたい、と考える人もいることでしょう。収入が全てではありませんし、最近は働き方が多様化しており、子どものそばにいながら在宅勤務(テレワーク)や独立起業をするといった選択肢もあります。様々な可能性を考えながら、まずは仕事を辞めたときのシミュレーションを頭の中だけではなく、実際にやってみると良いでしょう。
意外とやっていけそう、やっぱり無理そう、など様々な気づきがあると思います。ここを削らないと生活していけないといった節約ポイントに目が向くこともあります。最終的に働き方を変えるかどうかは夫婦二人で決めることですが、いずれにしても後悔だけはしないよう、今試せることはやってみると良いですね。
ファイナンシャル・プランナー(AFP)。1983年埼玉県生まれ。会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやコラム執筆を行う。独立後は、起業のコンサルティング業務とともに、執筆や個人マネー相談、メディア出演などを中心に活動中。著書に『いちばん稼ぎやすい簡単ブログ副業』(河出書房新社)がある。
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