「年金が十分にもらえるのか不安」—そんなふうに思っている人も多いです。私が住んでいるシンガポールには公的年金はありません。しかし、年金のない国でも早期から強制貯蓄をすることで老後資金の準備が可能です。その方法は年金不安の日本でも大変参考になると思います。
「老後生活を送るには1億2,000万円必要」−シンガポールにいる知識層は老後必要なお金をパッと言えて、若い頃からその準備をしています。年金がなくても知識と準備があれば老後の備えは可能なのです。
シンガポールでの老齢者の1ヶ月の平均的な支出は30万円(年間の支出は360万円)程度です。65歳から90歳までの25年間に換算すると9,000万円必要ということです。医療費の自己負担も日本よりもずっと大きいために予備費なども加えると1億2,000万円程度は必要ということになるのです。
これに対して、日本で老後生活を送るにはいくら必要でしょうか。2015年の総務省の家計調査によると、年金世帯の平均的な毎月の支出は27万5706円(年間の支出は330万円程度)です。25年間で8,262万円程度の金額が必要になります。生活費だけを見るとそれほど変わらないことがよく分かります。
日本では公的年金ももらえるために、平均的な月の収入は21万3379円(年間約256万円)で25年間で約6,401万円必要になります。必要総額に対して年金などの収入だけでは約1,861万円の赤字になります。そのため、貯金などでの備えが必要になります。生活費の他にも住宅の修繕や介護費用など予備費も1,000万円程度は確保したいので、世帯で3,000万円程度の老後資金が必要になってきます。
シンガポーリアンは中央積立基金(CPF) という強制自動天引き貯蓄のようなシステムで、自分自身で将来のお金を貯めます。厚生年金のように、雇用主と労働者が共に資金を拠出するというスキームで、55歳以下の労働者は収入の20%、雇用者は17%を拠出し、収入の1/3以上の金額を将来に備えて積み立てる仕組みになっています。医療費用、持ち家取得、老後生活に備えた強制貯蓄の役割を果たしています。
この制度はよくできており、複利を利用して最も効率的に貯蓄できるようにするために若い頃の拠出率が高くなります。CPFは持ち家率向上にも貢献し、現在シンガポールの持ち家率は9割程度にも及び、持ち家が老後の備えにも貢献しています。
CPFで足りないお金は税金の優遇を受けながら退職金を積み立てることができる銀行口座(SRSアカウント)や投資型の保険に加入(所得控除あり)をするなどをして別途自分でも積立をしています。また中華系は子供に助けてもらうという思考が強いために「子供も年金」と言う人もいるくらいです。公的年金がないために、「3つの積立」「マイホーム」「子供」など何重もの備えを取っているのです。
老後生活を送るには日本で暮らすほうが物価や医療費なども低く、現段階ではずっと楽です。しかし、将来はどのような社会や経済状況になっているか分かりません。2060年には高齢者1人を1.3人の現役が支えるという不安定な人口構成になります。また、長生きリスクもあり、「人生100年時代」を見据えて、より長期的なライフプランが必要になります。世代によっては逃げ切れるかもしれませんが、更なる給付のカットや保険料の引き上げが行われる世代は自分で準備しなければならないお金は大きくなることが予測されます。
現在30歳の人が60歳までの30年間の間、年100万円を貯めた場合、全く運用をしない場合は3,000万円ですが、1%複利の場合で約3478万円、3%複利の場合で約4,758万円、5%複利の場合で約6,644万円になります。シンガポールでは投資型の保険の利回りが3%以上あることが一般的なので早くから積立を開始すると資産を倍増させることも可能です。日本でも確定拠出年金制度など老後資金を自力で作る制度が整いつつあります。老後資金を自力で積み立てる自己責任の反面、税制の優遇を受けることができれば運用次第で老後資金を大きく殖やせる可能性もあります。リスクを抑えながらリターンを狙う国際分散投資の方法も次回以降詳しく解説していきたいと思います。
過去記事も合わせてご覧ください。
・世界の賢者から学ぶ資産運用の第一歩「なぜ資産運用が必要なの?」
外資系投資銀を経てFPとして独立。著書に『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』、監修本にジム・ロジャーズ著『日本への警告 米中ロ朝鮮半島の激変から人とお金が向かう先を見抜く』 (講談社+α新書)など。
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